さあ 貴女に逢いにいこう


 −偲ぶ貴女へ愛と感謝を−


昨日から今日の明け方にかけての義賊・暗闇烏としての激務(途中でMZDが乱入)に疲れ、マサムネは朝の惰眠を貪っていた。
春から初夏に向けて、少しずつ暖かくなってきているが、未だ布団の温かさと柔らかさは疲れた者には抗い難い。
そんなマサムネの部屋の襖をそっと叩く音。

「マサムネ、起きているか?」
「………まだ…寝てる………」
微睡んだまま答えたマサムネに白ムネは苦笑しつつ、言う。
「マサムネ。私はこれから出かけてくるよ」
そう言った白ムネを見送ろうと、布団から顔を出して―といっても瞼はほとんど閉じている―マサムネは言う。
「…おう……、いってらっしゃい…」
「ああ、いってきます」
微笑んで言った白ムネは外套を翻し、そっとマサムネの部屋の襖を閉じた。

微睡みながらマサムネは思う。


  そういや兄貴、いつもの着物じゃなかったな…

  義賊・暗闇烏として動く時の衣装じゃなくて、正装してるとか珍しい…
  …兄貴、あんまり着るような機会なかったし、俺様も初めて見るんじゃねーか?…


そこまでぼんやり考えたマサムネは、跳ね起きた。
白ムネは長く幽閉されて暮らしてきた関係もあり、交友関係はとても狭い。
友人に会う時もいつもの白装束、あるいは義賊・暗闇烏としての衣装を着て出掛ける事が多い。
しかし今日の白ムネは正装をしていた。
マサムネも初めて見る、その姿で白ムネは出かけていったのだ。

一体白ムネは何の為に、誰に会いにいったのか―

そこまで思考が至ったマサムネは更に思考を巡らせる。
そして正装した男性が出掛ける理由を考え、唸っていたマサムネの動きが止まる。


「……絶対ぇ、邪魔してやる…!」

そう呟くやいなや、マサムネはさっさと着替え、白ムネを追うように家を飛び出した。





大通りまで出たマサムネは辺りを見回す。
見える範囲に白ムネの影は無い。
考えてる間にさっさと追えばよかった、と思いつつ息を整えていると、

「よお、マサムネ。 何か捜しもんか?」
不敵に笑む六がそこにいた。

「ああ、六か。
 …なあ、俺様の兄貴見なかったか?」
とりあえず白ムネの行方を知らないか訊いてみる。
すると、軽く眉を上げて六は言う。
「ん、見たぞ。いつもと違う格好だったがな」
「本当か!?」
問いに対する肯定の言葉に、白ムネの向かった方向を尋ねようと思ったが、次に六の放った言葉にその言葉は止まった。


「大きな花束を持ってあっちに行ったぞ。
 いつもと違う服装で花束を持っていたから『大切な奴にでもやるのか?』とからかったら、臆面もなく『そうだよ』と言った。
 全くからかい甲斐のない奴だな」





大通りを離れて、白ムネは目的地へと進む。
歩く度に外套と、腕に抱えられた花束が揺れる。
「たしかこっちの道だったはずだが…」
そう一人ごちつつ進んでいると、微かに後ろから物音を感じた。
思わず、振り向くと。

「兄貴ーっ!!」

後ろからマサムネが走ってきた。
「マサムネ。どうしたんだ、そんなに慌「他の奴のとこになんか行かせねぇからな!」
白ムネの言葉を遮って、噛み付くようにマサムネは言う。
そんなマサムネの様子の理由が解らなくて、白ムネの眉間に少し皺が寄る。
「落ち着くんだ、マサムネ」
「落ち着けるかよ!
 兄貴には俺様がいるだろーが!!
 他の奴のとこになんか、みすみす行かせるか!」
全力疾走した後に叫ぶように言葉を紡いだマサムネはぜいぜいと息を付きつつ、白ムネをまっすぐに見る。
そんなマサムネに白ムネは笑って言う。
「何を勘違いしているかは解らないが、他の人などいらないよ、マサムネ」
「…じゃあ、その花束を渡そうとしてんのは誰だよ…」
白ムネにそう問えば、白ムネは思い至ったらしい。
「ああ、もしかして六君に聞いたのかな。
 だったらマサムネ、一緒に行こう」
「………は?」
白ムネの言葉に、つい間抜けな声で聞きかえす。
そんなマサムネに白ムネは柔らかく笑う。

「今日はマサムネも彼女に逢うべきだからね」




二人で連れ立って歩いていく。
確かこっちだったような…、と呟いて歩く白ムネについていく内に、マサムネは今自分の歩いている道を知っている事に気づく。
まさかな、と思いつつも行き先を尋ねずに白ムネと共に歩くと、知っている場所に辿り着いた。

「よかった、ちゃんと着けた」
安心したように息をついた白ムネは辺りを見回して、目当ての場所を探す。
「…兄貴、こっちだ」
そう言いつつ、白ムネの手を取り、マサムネは歩き出す。

もう、マサムネは白ムネが逢うと言った『彼女』の正体に気づいていた。
だからそこに辿り着く前に、桶に水を汲み、柄杓と共に持って進む。



「お久しぶりです、…かれこれ十年以上ですね、お逢いするのは。
 あの頃はあの暗い場所に閉じ込められていましたが、今はマサムネが頭領となってくれたので、私も外に出られるようになりましたよ。
 本来ならば外に出られるようになってから、もっとはやく来るべきだとわかっていたんですがね。
 …中々自分の中で決心がつかずに今日になってしまいました」
そこまで言って、白ムネは花束を差し出した。

「貴女は存じていると思いますが、今日は母の日なんですよ。
 貴女の元に来るのが遅くなった不肖の息子からですが、受け取って下さい、母さん」

灰色の石碑の前に、赤と桃と白のカーネーションでつくられた花束が映えた。




「…兄貴は、お袋達の事、嫌ってんのかと思ってた」
母に逢った帰り道、マサムネがぽつりと呟く。
その言葉に、白ムネは首を振る。
「いいや、嫌いではないよ。
 ただ、どう接してよいのか解らないだけだ」
懐かしむように、遠くを見て白ムネは言う。

「…確かにマサムネと比べれば、世間の目から見れば、私は親から愛されていない、となるのかもしれない。
 けれど、私は知っているんだよ。父さんと母さんの二人の優しさを。

 人と違う力を持って生まれてきた私を元からいなかったモノとして、消す事だって出来たはずなのに。
 実際に他の者たちはそうしようとしたのに、二人は私を庇って、この命を守ってくれた。
 独りでいる私の事を気遣ってくれていた事も知ってる。

 何より、私に兄弟という存在を―マサムネを残してくれた」

そこまで言って、白ムネは笑んだ。
「父さんと母さんは、今も私に幸せを与えてくれている。
 だから、いいんだ」
「そっか。
 兄貴の中で決着がついてんなら、俺様はいいよ」
「うん。…ああ、そういえば」
ふと何かを思い出したらしい白ムネがマサムネの方に向き直る。
「『他の奴とこになんかいかせない』って言ってたけど、あれは何だったんだ?」
白ムネのその言葉にマサムネの背が跳ねる。
「そ、それは…」
「それは?」
言いよどむマサムネと、楽しそうに微笑む白ムネ。

「―っ、あ、兄貴が正装して出かけてったから、俺様以外の大事な奴でもいるんじゃねーかと思ったんだ!!」
半ばヤケクソ気味に、叫ぶようにマサムネが言うと、破顔した白ムネがそこにいた。
「わ、笑うな!」
「うん。勘違いさせてすまない、マサムネ。
 でも親だということを置いておいても、きちんと挨拶をしたかったんだ」

「だって、マサムネが生まれてきたのは母さんのおかげだから。
 愛する人の親にきちんと挨拶したいと思うだろう?」




  人と違う私に 確かな『愛情』を与え
  大切な存在を生んでくれた 貴女に『感謝』して

  そして ただ 貴女を『偲ぶ』





 <あとがき>
ということで白黒で母の日ネタでした。
甘いんだかシリアスなんだかよく判らないのはいつものことです、きっと。

普通は亡くなってるお母さんには白いカーネーションを送るそうですが、今回は他の色の花言葉にもあやかってみました。

赤:愛情
ピンク:感謝
白:亡き母を偲ぶ

他の意味もありますが、今回はこれをピックアップ。
そして書いていて、白ムネさんが花束をささげるシーンを想像して一人でによによ。
やっぱり白黒はおいしいです^^