言葉で伝えても 信じてもらえねえなら


 −片目に施すその意味は マサムネside−


「マサムネ」
俺様を呼ぶ兄貴の方へ顔を向けると、兄貴がこっちへ来いというように手招きをする。
「兄貴が来やがれ」
そんな兄貴を一蹴するように言えば、苦笑した兄貴が隣に座った。
「最近、町はどんな感じなんだ?」
「…花街の芸妓狙いの阿呆どもが多いな。
 毎晩に近い頻度で現れやがる」
「それは、義賊・暗闇烏として見過ごせないな」
「ああ。
 今日もこの後見回りに行く」
「そうか。
 気をつけてな、マサムネ」
そう言った兄貴に対し、口角をつり上げる。
「俺様を誰だと思ってんだ、兄貴。
 弱ぇやつにしか手をださんような奴らにやられる訳ねえだろうが」
俺様のその言葉に兄貴は笑みをつくる。
「そうだな。
 武術の仕込みのないような奴らではお前にかなわない。
 だが、油断は禁物だ…わかるだろう?」
「ああ。
 …さてと、じゃ俺様はそろそろ行くぜ」
「待て、マサムネ」
そう言いつつ立ち上がり、戸口へと進もうとしたところで、呼び止められる。
立ち止まれば兄貴が俺様の前に立つ。

そっと近づく兄貴の顔。
眼帯の上に触れる唇。

「…気をつけてな」
そう言って間近にある兄貴の瞳が俺様を射つつ、離れていく。
「―っ、兄貴」
とっさに兄貴を呼んで、その胸ぐらを掴んで引き寄せる。
俺様の行動に驚いたらしいが、兄貴はなすがまま。

そんな兄貴の眼帯の上から、兄貴の行動に倣うように口づけた。

「……いってくる」
「ああ、いってらっしゃい」
綺麗な笑みを浮かべているのは知っているから、あえて兄貴の顔を見ずに部屋から出た。



兄貴の右目は人と違う。
生まれた時からのもので、その目は人目で人外だと知れるもの。
そのせいで兄貴は化け物だと忌まれ、滅多に外に出ることを許されない。
兄貴本人はその事に対してあまり文句は言わねえが。
けれど常に、寝るときや湯に入る時ですら兄貴は眼帯を外さねえから、右目を見られることはおそらく好んでない。
兄貴の側にいる俺様ですら真っ向から兄貴の右目を見たのは、数えるほど。

けれど、兄貴は知らないが俺様はそれ以上に兄貴の右目を見てる。
まだ兄貴と会うことが許されてなかった、兄貴を兄だと知らされてなかった頃、
こっそりと覗いた先には右目にまいた包帯を取り去っている兄貴がいた。
その目は、銀色とも灰色ともいえない、存在がないようなの色の瞳。
他の奴らが思うように怖いとは思わず、俺様はただ綺麗だと感じていた。
だから兄貴の右目を真正面から見た時、「綺麗で好きだ」と伝えたことがある。

その言葉を言った時の兄貴は寂しそうに笑い、
「気をつかわなくても大丈夫だ、マサムネ」
と俺様の頭を撫でた。

だから、それ以来兄貴の右目のことについては特に触れねぇ。
けど俺様にとっては兄貴の右目が綺麗だって事は変わらねえから、時折兄貴の行動に倣うことにしてる。



  言葉で言っても 信じてもらえねえなら

  その好意を 唇に込めて





 <あとがき>
とある日に、恭しくマサムネさんの右目にちゅーする白ムネさんがふっと浮かんだので書いてみた。
ツンデレマサムネさんは時折しかちゅーし返しません。でもそこがいい(←

言葉で言っても伝わらないなら行動で証明なマサムネさん。
よく「口があるんだから言葉で伝えなさい」って言われたりとかあるけど、それだけが全てじゃないと思う。
伝えないことの幸せだってあるし、行動で示したことによる幸せだってあるんだしね。