途切れ途切れの謝罪の言葉と、こぼれ落ちる涙。
兄貴がこんな風に泣くのをみるのは初めてだった。
兄貴が俺様の兄貴として世に出られるようになったのは一年と少し前の事。
だから兄貴は俺様の前で『世間一般的な兄』であろうとする。
…まあ、兄弟で恋仲、ってのは例外だが。
兄貴は兄として、恋人として、常に完璧に近い。
俺様の行動に理解を示し、時に俺様をたしなめ、
俺様が落ち込んでいる時には慰め、時に愛情表現をして。
「好きだ」と口にするのが苦手な俺様を咎めず、俺様の行動や表情からそれを理解してくれる。
俺様はそんな兄貴を尊敬していて…愛していて。
そして、兄貴が俺様に心配をかけまいと振る舞う事に歯がゆさを感じていた。
そう、兄貴は俺様の前で『世間一般的な兄』であろうとする。
弟に対して優しく、頼れる兄であろうとする。
その為に、兄貴は俺様に心配をかけまいと、辛く感じる事があっても、それを俺様に感づかれないようにする。
俺様が気付いて「何かあったのか?」と尋ねても、「大丈夫だ」と言って、絶対に俺様に対して弱音を吐かねえ。
それが、俺様は辛かった。
俺様だって兄貴を支えられるようになりてえし、互いの弱い部分を補え合えるようになりてえと思ってる。
だから兄貴が俺様に対して弱音を吐かない事が、信頼されていないようで苦しかった。
ずっとその思いを抱えてた中で、今日兄貴が右目を咄嗟に隠したり、明らかに何かあるのに大丈夫だと言うもんだから、
詰め寄って押し倒して、自分の思いをぶちまけちまった。
そうしたら、兄貴は泣いた。
兄貴が泣くのを見るのは初めてじゃねえ。
けど俺様が見た事ある兄貴の泣いた場面は、目にゴミが入ったとか、痛みに対する生理的な涙ばっかりだった。
自分の感情のままに、ぼろぼろと涙をこぼして泣く兄貴は初めてだった。
自分が泣いている事にも気付いていないだろう兄貴の身体を起こして、兄貴の目に浮かぶ涙を拭う。
俺様が拭ってから、兄貴自身も泣いている事に気づいたらしい。
「すま…ない…、マサムネ…」
兄貴の口から謝罪の言葉がこぼれる。
そんな兄貴を抱き寄せて、その背を撫でながら言う。
「いいぜ、気にするなよ。
…いつも俺様の方が支えられてんだし」
「………っ…く……」
俺様の言葉に答えようとした兄貴の口からは嗚咽だけがこぼれる。
涙は止まらないらしく、俺様の肩に顔をのせて泣き続ける兄貴。
そんな兄貴を、そっと落ち着くまで抱きしめ続けた。